医療ツーリズムの最近の動き:JCI

「医療ツーリズムといえばJCI(Joint Commission International)」といったように、医療ツーリズムと一体になって話されることが多いJCIであるが、その本体はどんなものなのか、今回はそれを覗いてみたい。

医療の第三者評価の歴史

医療機関での第三者評価の始まりは、アメリカの外科医アーネスト・コッドマン(E.Codman 1869−1940)が1910年、外科手術患者の退院後の追跡を行い、診療の質を結果によって評価するシステム(End-Results system of hospital standardization)を考案したことが発端である。

ついでコッドマンらを中心にアメリカ外科学会が設立され、手術後の経過を評価する手法を用いて医療の標準化が行われようとするが、反対も多くなかなか進まなかった。

1951年にアメリカ外科学会、内科学会、病院協会、医師会、カナダの病院協会の5つが理事者となりJCAH: Joint Commission on Accreditation of Hospitals -病院認定合同委員会(1987年に現在のJCAHO:Joint Commission on Accreditation Healthcare Organizations に改名)がスタート。

非営利組織として設立されたJCAH(Joint Commission on Accreditation of Hospitals)は認証事業を行い、その後JCAHO(Joint Commission on Accreditation Healthcare Organization)、2007年にはTJC(The Joint Commission)と改称されて現在にいたる。また、1994年にはJCI(Joint Commission International)が設立され、アメリカ国外の医療機関の評価に着手した。

医療ツーリズムの問題点

倫理的な問題点としては、医療はお金で配分されるものでは無いという指摘が多い。
また通常の医療だけではなく、例えば、移植医療ではどの臓器をどのように入手するのかといった問題に発展したり、タイやインドで行われているような受胎においては、誰がその子の本当の親なのかといった問題が提起される場合もある。

もちろん医療ツーリズムを擁護する側としては、現実的にニーズがあるのだからそれでいいのだと主張する人が多いが、医療ツーリズムが積極的に行われているタイのような国であっても、すべての医師、医療従事者あるいは国民がこの現象に賛成しているわけではない。

現在のJCAH現在のJCAH

日本においては1985年に厚生省(当時)と日本医師会が合同で病院機能評価に関する研究会を設置し、1987年、「病院機能評価マニュアル」が作成された。同年、東京都私立病院協会青年部会においてJCAHO研究会が発足され、1990年には医療の質に関する研究会が発足し、評価調査者の育成や中立的な立場による学術的な第三者評価が行われた。

やがて1993年厚生省(当時)の病院機能評価基本問題検討会により、第三者による中立的な医療機関の評価を行う公益法人の必要性が提言され、1995年日本医師会内に設立準備室が発足して現在の日本医療機能評価機構が設立されるに至っている。

TJCは第三者の視点から医療機関を評価する民間団体であり、日本における医療機能評価機構の原型となった組織である。TJCは医療施設評価機関としては米国最大であり、医療機関情報の真実性、正確性、適正性を確保し、国民に必要な情報を提供する推進役を担っているとも言われる。政府や州からの監査を受けなくてすむ、公的保険制度であるメディケア・メディケイドが、当団体の審査を必須にする等、他機関あるいは政府からも信頼される評価機関であり、国民への情報公開と医療機関の品質改善の促進という二つの大きな役割を果たしている。

TJCの認証は全米の病院の約80%、病床数で言えば95%をカバーしている。徐々に認証(Accredited)組織の対象を拡大し、リハビリセンターや、老人ホームに対する認証も実施するとともに、最近では喘息などの疾患別に認定(Certified)を与えるプログラムも実施し始めている。

米国の国内でTJCの認証を受けるメリットとしては、メディケアなどの保険償還を医療機関が受ける際に有利になるというものであった。CMSがメディケアの仕組みで医療費を償還する場合には、CMSが州に監査を委託するが、TJCによる認証を受けていると、その監査がなくなる場合がある。

JCIとは

TJCが全米の活動をより広げ、自らのミッションである国際的な医療の質改善を進めることを目的に、1989年にグローバルの基準を作成、JCIとしての「認証」と「出版、教育、コンサルティング活動を始めた。つまりTJCの国際機関である。1999年から米国の基準を参考に、各国ごとの診療実績・事例(ベスト・プラクティス)を調査・収集し、それぞれの国ごとの法律や状況に適した評価基準作りを進めている。

日本におけるJCI取得機関の一覧

JCIの組織

インターナショナルという言葉が示すように、国際的に展開していこうという部署である。コンサルタント、教育といった部署と認証部署が同じ組織として並存している点については、ガバナンスの国アメリカらしく厳密なファイアーウォールが設けられており、コンサル部署では認証部署がどんな病院を認証しようとしているのか、認証部署ではコンサル部署がどんな病院を認証しようとしているのかがわからない。

JCIの認証方法

JCIの認証における視点は、トレースメソッドである。すなわち、提供されている診療に焦点を当てており、個々の患者が来院し、帰るまでのプロセスを追跡調査している。

さらに、病院内の書類を確認するではなく、実際の診療プロセスを確認するような形式に評価の仕方を変えている。当然、全ての診療科をこのトレースメソッドで評価することはできないので、優先順位をつけている。この優先順位には、病院が強みと思っている診療科といった視点もあるし、常日頃病院から提出されるデータからの判断もある。

認証された組織は3年間の間に一度、評価(サーベイ)を受けなければならない。継続的に病院がパフォーマンス改善に取り組むよう、これらの認証・認定プロセスの鍵となる仕組みとして、定期的な中間レビュー(自己評価)や追跡方法の工夫、評価の優先順位を決定するための情報収集プロセス、来訪日時を予告せずに行う評価プロセスを設けている。

審査は、いわゆる審査員であるSurveyor、認証や認定を与えるか判断を行う審査員であるReviewers、さらに、建築物の安全性などについて言及するLife Safety Code Specialistsといったメンバーから構成される。

JCIの活動のメリット

JCIで認証をうけるメリットは何か?TJCと異なり、保険者から受けるメリットは少ない。しいて言えば、医療ツーリズムにおいて米国保険者が、タイやシンガポール、日本などの海外の病院を紹介するときにメリットがあるくらいであろうか。
メリットはむしろ消費者や患者との関係にある。海外に住む米国人であれば、米国内と同じ認証を受けている医療機関を選ぶであろうし、米国企業もそういった医療機関との提携によって海外赴任の従業員へのメリットを考えるであろう。

この意味で、TJCの米国内認証が、質改善、および業界のスタンダードといった趣が強いのに比べ、JCIの認証は差別化の意味が強い。すなわち、米国人以外の消費者あるいは患者に対してはブランドの意味があるのだ。JCIの認証の意味は、質改善と同時に消費者や患者へのアピールにあるのである。

米国での記事

ここで、米国外科学会の雑誌にJCIと医療ツーリズムの記事が載っていたので概要を紹介したい。(※1)
米国では毎年、75万人の患者が医療を受けるために海外に行く、すなわち医療ツーリズムを行っているとされる。患者は主に、美容整形、心臓、歯科、整形外科が多いという。この雑誌では、医療ツーリズムが過度になることには警戒をしているが、希望がある場合にはJCI認証の医療機関を考えてはどうか、と言っている。
同誌によれば、医療ツーリズムにおいて気を付けることは言語も含めたコミュニケーションの問題、ケアの基準の差、薬剤の質が悪い問題、状況によっては偽薬をつかまされるかもしれないという問題、帰国してからの合併症の問題をあげており、最後に、医療ツーリズムはリスクもあるがJCIは、米国の医療機関や医療社が海外の医療機関を評価する一つの方法とし、米国人が海外に行くときに、このHPをサーチしておくことも勧めている。
また、これらの問題は日本に当てはまらないものもあるかもしれないが、日本の医療機関も肝に銘じておきたいものである。